ハイパーオートメーションを阻害する要因の1つ「紙業務」を、さらに「請求書」にフォーカスを当てて述べていきたいと思います。
今回はその前半部分で、世界および日本の状況を確認していきたいと思います。
各社のレポートから現状を知る
ここでは、請求書にかかわる3つのレポートからキーポイントを取り上げてみたいと思います。
Billentisレポート(2019年5月)
まず、新型コロナウイルスによるパンデミック前の2019年5月に出されたこのレポートでは、企業とそのパートナー企業は、年間5,500億を超える請求書を交換しており、その数は2035年までに4倍になると予測しています。また、2019年現在、ペーパーレスでやり取りされている請求書は約550億枚(約10%)に過ぎないようです。
また、国別での電子請求書の普及度・市場の成熟度は以下のようになっており、日本は「発展途上」と位置づけられています。
日本は紙の請求書でかつ押印することが一般的であるためですが、インボイス制度が導入されることで改善すると考えています。
成熟度は各国の事情がありますが、面白いのはラテンアメリカが成熟度が高いことが分かります。
たとえば、アルゼンチン税務当局(AFIP)は、2019年春に電子請求書発行の義務化体制を経済の全分野に拡大しました。
ブラジルでは、ごく一部の例外を除き、すべての企業に電子請求が義務付けられています。
https://edicomgroup.com/electronic-invoicing/brazil
イメージ的には「発展途上国は電子化が遅れている」という感覚がありますが、比較してみると日本のほうが発展途上のカテゴリになっており、政府のやる気がデジタル化に大きく寄与する良い例だと思います。
Ardent Partnersレポート(2021年2月)
Ardent Partners AP Metrics that Matter in 2021
http://ardentpartners.com/2021/02/announcing-the-ap-metrics-that-matter-in-2021-ebook/
債務担当者が請求書データの入力、間違いの修正、請求書と支払いのステータスに関する電話や電子メールへの応答など、自動化できるタスクに4分の1近くを費やしています。そのため、業務時間が平均1日あたり2時間追加になっているようです。
逆に、高度に自動化された経理部門はフルタイム従業員1人あたり8倍の請求書が処理できるようになります。さらに自動化により、スタッフの作業負荷だけでなく、エラーや不正のリスクも軽減されることがわかりました。
債務部門が受け取る請求書の大半が電子化されるようになりました。2021年、平均的な債務組織は現在、請求書の51%を電子的に受け取っています。
請求書1枚を処理するための平均コスト(人件費、間接費、技術費などを含む)は、過去1年間に8%微増して$10.89となりました。この増加は残念なことですが、ほとんどの組織にはまだ改善の余地があることは明らかです。
過去12ヶ月間の全請求書の約4分の1(24.6%)に、承認されるために債務担当者が何らかの措置や追加作業を行う必要がある例外のフラグが立っていた。例外の割合が高いことは重大な問題であり、多くの債務部門が企業においてより戦略的な地位を獲得することを阻んでいます。
Beanworksレポート
State of Accounts Payable Today
https://www.beanworks.com/resources/research/state-of-accounts-payable-today/
債務機能を自動化すると、企業の収益を平均して年間35,000ドルも改善できます。
会計プロセスを自動化した債務専門家のうち、74%が支払い遅延が少ないと述べ、67%が自動化以降支払い遅延がないと報告しました。
10人に8人が承認期間の短縮を報告し、79%が自動化されたプラットフォームが不正を効果的に捕らえて防止したと述べています。
回答者の約81%が、自動化によって監査が容易になったと述べ、71%が支払エラーが少ないと報告しました。
自動化により人件費が89%削減され、10人に7人が、債務の自動化以降、財務部門と他の部門がより生産的に協力したと述べています。
さらに、77%が、自動化によってベンダーとの関係が改善されたと報告しています。
日本の商慣習が自動化を妨げる
話題を日本に向けてみましょう。実は日本独自の商慣習が自動化の大きな妨げになっています。その理由は以下の3つです。
入金と債権が1対1でない
日本では「月末締め翌月(翌々月)末払い」という月末に複数請求書を合算して翌月(翌々月)に支払う金額を確定させる商習慣があり、実は国際的には一般的ではありません。国際的には都度請求が一般的で、支払期日も月末とかではなく、請求書の日付+〇〇日以内とかになります(画像では15日以内)。
日本の商習慣で合算されて入金された場合、どの請求書の合算なのかの入金対債権で1対多のマッチング(消込)が必要となります。
さらに言えば、入金が複数回であれば、多対多の消込となり、どの項目をキーに明細を括り、どんなルールに基づいて対象とぶつけるか、設定が複雑になりがちです。
国際的には1対1であり、また請求書(INVOICE)に発注書No(具体的にはPO(purchase order)No)が記載されているので、どの発注に対する請求なのか分かりやすくなっています。
振込手数料・消費税差額
日本の民法上は金融機関での振込手数料は本来振込人側で負担するとなっていますが、実際は振込人側が負担したくないため、入金額から振込手数料を差し引いた金額を入金するケースもあります。また。その振込手数料も固定ではなく、相手先の銀行や金額によって変わるため、金額だけでマッチングができず、問題をさらに複雑にします。さらに、消費税の計算方法で数円の差が出てしまうことも複雑にしている原因です。
親会社・子会社が一体になって入金してくる
ある取引において、子会社への請求に対してその親会社が入金してくる場合があり、また子会社がそのまま入金してくる場合もあり、問題をさらに複雑にしています。
これらの問題があり、日本における債権処理の難しさ、高度な文書処理 (Intelligent Document Processing /IDP)およびハイパーオートメーションの実現の難しさがあります。
参考URL
https://www.blackline.jp/blog/trend/matching.html
世界的な請求書相互交換プラットフォームの流れ
請求書を紙でやりとりするのではなく電子的にやりとりする仕組みを作ろうという流れが世界的に進んでいます。
今回はその中で大きな4つのグループを紹介したいと思います。
ConnectONCE(Open Network for Commerce Exchange)
ONCEは、グローバルトレードを推進するための共同フォーラムであるB2B eコマースに専念するマーケットプレイスオペレーター、そのサプライヤーと顧客、サービスプロバイダーなどを提供する唯一の組織です。
ONCEは、2000年の誕生以来、メンバーが共通の問題を特定し、オンライントレードの加速と成長を可能にする標準ソリューションを作成することに重点を置いており、市場の相互運用性、セキュリティ、ビジネスサービス、コンテンツ管理、ベストプラクティス、およびサプライヤの有効化を目指しています。
ONCEのビジョンは、電子取引ネットワーク、顧客、サプライヤー、サービス、テクノロジー企業の世界最大の同盟であり、取引パートナー間の電子商取引の採用を促進および加速するためのグローバルフォーラムを提供することです。ONCEの主な目標は、メンバーの製品とサービスに対する理解と採用を促進することです。
ONCEメンバーは、グローバルなB2B eコマースの成長に参加するだけでなく、毎日数十万の電子取引やビジネスサービスを促進することでそれを可能にします。
EESPA(European EInvoicing Service Providers Association)
EESPAは、ネットワーク、ビジネスアウトソーシング、金融、テクノロジー、およびEDIサービスを提供する組織から集められた、E-Invoicingサービスプロバイダーの大規模でダイナミックなコミュニティのヨーロッパレベルでの業界団体です。2011年に結成されたEESPAには、80人を超える正会員と準会員がいます。
EESPAは、そのメンバーシップのために多くのサービスを提供および開発しています。
・業界を代表し、公共政策の議論に参加する
・適切なヨーロッパのフォーラム内でのベストプラクティスの推奨
・相互運用性の促進と相互運用可能なエコシステムの構築
・電子請求書の幅広い採用とそのメリットの提唱とサポート
GS1
GS1 は、複数の地域にまたがるサプライチェーンの効率と透明性を高めるため、国際規格を設計・策定する国際組織です。
GS1 の規格体系はサプライチェーン用規格として世界で最も広く採用されています。
具体的には「GS1 XML Standards」という各商取引における規格を定めており、その中にINVOICEの規格もあります。
日本にも「一般財団法人流通システム開発センター」が日本支部として活動しています。
https://www.gs1jp.org/
個人的には棚卸iOSアプリを作っていた時に、バーコード規格の1つとしてGS1を知り、今でも仕事でGS1の活動を追っていることが感慨深くもあります。
https://www.barcode.ne.jp/barcode/1215.html
OpenPEPPOL
Peppolは、欧州委員会とコンソーシアムのメンバーによって資金提供された大規模なパイロットとして2008年に始まりました。
このプロジェクトの目標は、公的機関と民間部門の間の摩擦のない貿易を可能にすることであり、最終的には、健全な競争を促進しながら効率を高めることでした。
これらの目標を達成するために、Peppol Business Interoperability Specification(Peppol BIS)が開発され、eOrdersやeInvoicesなどの一般的な調達ドキュメントの交換が標準化されました。すべてがオープンで安全なネットワーク上で交換されます。
このPeppolというプラットフォームが実は最注目ポイントです。
2021年9月に設立されたデジタル庁は、発足されたその月(2021年9月)に「OpenPeppol」の正式メンバーとなり、わが国の管理局(Peppol Authority)としての活動を開始しており、「電子インボイス」とそのネットワークの実現は、デジタル庁の最重要施策となっております。
https://www.digital.go.jp/policies/electronic_invoice/
民間でも「EIPA|電子インボイス推進協議会」という枠組みの中でPEPPOLの推進が行われています。
https://www.eipa.jp/
別の機会でより深堀しますが、日本全体のハイパーオートメーションのためにPeppolにすごい期待しております。
なお、今回は割愛しましたが、上記のほかにもOASIS, UN/CEFACT, CENなどの団体もあり、請求書ネットワーク化に対して多くの組織が取り組んでいます。
後半に向けて
今回は状況を確認ということで、世界的な潮流や日本の状況についてトピックレベルではありますが触れてみました。
ここからどうドキュメントのハイパーオートメーションを進めていくかは次回から述べていきたいと思います。
AI-OCRのトレンド、PEPPOLなどの具体的な接続の仕方、自動化の具体的なテクニックなど紹介していければと思います。